スグアオが再会する話
設定捏造未来IF強めの妄想
色々細かいことは気にせずご覧ください
途中不穏な描写ありますがハピエンです
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「おっちゃん、祭り用のお面作ったから。ここ置いとくな」
「おっスグリ!今年はお前も作るようになったんかー」
祖父からの数年に渡る指導をクリアしてようやく人様に出しても恥ずかしくない面作りができるようになったスグリは、今年からオモテ祭り用の面の準備も手伝っていた。出店の店主の前にドサッと面が詰まった箱を置く。
「お前ももう二十何歳とかだろ?都会はどうだか知らねけど、ここじゃもう嫁さん貰っていい歳だ!誰かいい子はいないのか?ん?」
バシバシと背中を豪快に叩かれる。「なんならうちの姪っ子の友達でも──」まで聞いたところで嫌な予感がしたのでスグリはすかさず後ずさる。
「お、俺まだ準備残ってっから、公民館さ戻んないと…」
そこから先はなるべく振り返らずに早足で階段を下りて行った。
里へ戻る坂道を下りながらスグリは一人嘆息する。
「…俺なんかの嫁になってくれる子なんて…」
また自分を卑下する悪い癖が出てしまう。昔学校の先輩にも注意されたりしたっけ。
「…」
『──スグリのお嫁さんになったら、ここのリンゴ食べ放題だね』
昔、一人だけ。そんなことを言ってくれた子がいた。でもその子はもう──。
「…アオイ…」
何となくまっすぐ里に戻る気にはなれず、スグリの足は鬼が山に向いていた。
*
アオイとは両想いだった。
復学した頃にスグリから告白して、アオイも頷いてくれた。
といってもまだ子供同士の清い交際だったので、たまに手を繋いで街に出るくらいしか恋人らしいことはしなかったが。
交際を始めて何度か季節が巡り、卒業も近づいた頃、アオイはエリアゼロで行方不明になった。
リーグからの調査隊も同行した公式的な調査活動であったが、強力なポケモンとのバトル中にアオイの身体が爆風で飛ばされ、そのまま行方知れずになったのだという。
アオイの捜索はその数か月後に泣く泣く打ち切られた。
スグリは何度もパルデアに捜索に行こうとしたが周囲に強く止められて叶わなかった。泣きながら自分の頬を殴ってきたゼイユの顔を見たら、さすがに諦めざるを得なかった。
それからは──この通りだ。辛うじて卒業した後は見かねた祖父に帰ってこいと言われ、何となく家業の手伝いをしながら日々を消費している。
都会に住む姉とは年に数回会っている。そのたびにいつも何か言いたげな顔をされるがスグリは気づかないふりをしていた。
*
「──さむっ」
夜のてらす池は月明りが水面に反射し昼間よりも神秘的な空気を纏っている。
──それにしても、今晩はいつもよりも妙にポケモンが多い。
「…なんだべあそこ。やけにキラーメが集まってる…」
池の淵にキラーメが何体も集まっている箇所がある。スグリはポケモンを刺激しないようゆっくりと近づく。
「──!!!」
スグリは思わず一瞬呼吸を忘れた。キラーメたちの隙間を覗くと、池から人の手が出ていたからである。
「ひ、人…!カイリュー、引っ張るの手伝って…!」
スグリはカイリューをボールから呼び出し、無我夢中で細い手首を引き上げる。
水を吸って何倍もの重さとなった服を纏った腕を引き上げた瞬間、スグリの心臓がドクンっと跳ねた。
「ア、ア…アオイ…!?」
髪や服もずぶぬれだがスグリにはすぐにわかった。何年も瞼の裏に焼き付いて離れなかった少女が、最後に見送った時の姿のまま今自分の腕の中にいる。
「アオイ、アオイ、アオイ……!!」
ぐったりとした身体を抱え、喉が潰れるまで何度もアオイの名を呼びかけていると、やがてスグリの耳に何度も夢で聞いた鈴のような声が響いた。
「──ん………ここは…?」
「──!!アオイ、アオイ、生きてる!わやじゃ、良かった……!!」
スグリは涙でほとんど前も見えなくなった顔を歪ませ、自分よりも一回り、いや三回りほども小さいアオイの身体を抱きしめる。
「『わやじゃ』…?お兄さんは、まさか、スグリ…?」
*
「あ、あの……お風呂、ありがとう」
「どういたしまして。ねーちゃんの服ちょっとでかいけどそれしかなくて、ごめんな」
あの後スグリはアオイをおぶって山を下り、今晩は自宅に泊まらせることにした。
今は祭りで留守の祖父達が戻ったらなんと説明すれば良いか等考えることは山ほどあるが、そんなのは後だ。
「スグリ…あれから何年も経ったんだね。大人になったね」
「うん…アオイの見た目は変わってないな」
アオイの話を聞くと、あの日エリアゼロに行ったアオイは深層の洞窟の中でバトル中、川に吹き飛ばされ落ちて流されてしまったらしい。
そしてその次には大人になったスグリの腕の中で目を覚まし、アオイ以外の世界は何年も時間が進んでいたことを知った──。
「てらす池がエリアゼロと繋がってるって迷信、本当だったのかな。アオイの身体はタイムマシンみたいにここまで運ばれてきた…のかも」
「うん──…。あ、そうだ、みんなは大丈夫かな!?」
アオイはおもむろに縁側に出てモンスターボールを放る。
コライドンやオーガポン等、見知った顔ぶれ達が元気よく出てきた。
「アギャッ!!」
「ぽにおーん!」
「鬼さま!ポケモンっこたちも無事みたいだな。よかった…」
「ぱごー…」
「あれ、でもテラパゴスだけ何だか眠そう…」
アオイはゆっくりとテラパゴスを抱え上げる。体調が悪いというよりも単に疲れているような様子だ。
「───もしかしてだけど…きみの力で溺れたアオイをここに連れてきてくれたの?」
「ぱぁ、ご~」
テラパゴスは肯定なのかあくびなのかわからない返事をして自分からボールに戻っていった。
「──ありがとね、テラパゴス…」
「うん…テラパゴスをアオイに託してほんとに良かった」
他のアオイのポケモンたちは久々の外を楽しむように里に駆けて行った。
少女と青年だけになった家はまた静寂に包まれた。
「…朝になったらアオイの母さんとか友達とかに連絡しよう。みんな絶対喜ぶ」
「…」
アオイは縁側にちょこんと座ったまま突然静かになった。
「アオイ…?」
「…ネモもペパーもボタンも、スグリも…みんな大人になって、それぞれの道を歩いてるんだよね。私だけ、あの時のまま何も変わってない」
せっかく助かったのにこんなこと言っちゃダメだね、とアオイは舌を出して小さく微笑む。
「スグリは、学校は…当然卒業してるよね。すぐキタカミに帰ったの?彼女とかできた?」
「アオイ」
「あ!もしかして、もう結婚とか…」
「アオイ」
スグリはアオイの横に座って手を握り、もう片方の手で少し濡れた目元を拭ってやった。
「俺だって何も変わってねんだ。俺にはずっとアオイだけだった」
アオイの手、わやちっちゃいな。と独り言を言いながらスグリは続ける。
「アオイは俺のこと、かっこいいとか、よく褒めてくれてたけど…全然だべ。俺アオイがいなきゃ全然ダメだった」
せっかく拭いてもらったアオイの目からはまた涙が零れる。
「俺の方がちょっと先にでかくなっちまったけど…それでもよかったら、アオイのこれからの時間を俺と埋めさせて欲しい」
*
─数日後─
「スグリ、バスきたよ!」
「えっと、忘れ物ねぇよな。アオイの母さんへのお土産も持ったし…」
大きな荷物を抱えたスグリとアオイが慌ただしくバスに乗る。これを逃したら確実にパルデア行きの飛行機には間に合わない。
アオイの母にアオイが無事に保護されたことをスグリが電話で知らせた時、電話越しでもわかるくらいの驚きと喜びが伝わってきた。「ぜひ会ってお礼を言いたい」ということでアオイの付き添いも兼ねパルデアに招かれたのであった。
「ネモ達も私の家で待っててくれてるって。ゼイユも来てくれるんだって?」
「うん。ねーちゃんもアオイに会えるのわや楽しみにしてる。心配させたの怒ってくるかもしれんけど、許してな」
「ふふ、もちろん」
バスの振動に揺られながら景色を眺めるアオイに、スグリは昨日と同じ質問を投げかける。
「アオイ、これからもキタカミに住みたいって話…ほんと?」
「うん。もちろんパルデアにはちょくちょく帰るけど、住むのはこっち」
ずっと待っていてくれたスグリと共にいたいというのが一番の理由ではあるが、それだけではない。
何年も歳をとらずに生還した少女はパルデアの研究者たちの恰好の興味の的となるだろう。リーグ委員長のオモダカがアオイのプライバシーを守ってはくれるだろうが、アオイとしても散々心配をかけた後であまり負担を負わせたくはない。
「ここの人らはあんま科学的なのは興味ねから、奇跡の再会!とか喜ばれて終わりだったな。まぁ今は俺たちの関係に興味津々って感じだけど…」
「パッと見は兄妹みたいだもんね、今の私たち」
「みんなすぐに見慣れるべ。俺たちは今まで通りでいたらいい」
今は自分たち以外の乗客がいないバスの中で、座席の下で指を絡めて手を繋いでいる。
「スグリ」
「ん?」
スグリが振り向いた瞬間、二人の唇同士が初めて一瞬だけ触れ合う。
「私、早く追いつくから。それまで待っててね」
おわり