オーター・マドルと戦う理由

オーター・マドルと戦う理由


https://telegra.ph/オーターマドルと真実-02-26

↑の続き


アレックスの事を思い出した。

出会った日、初めて共にご飯を食べた日、怒られた日、穏やかな日々、……彼が死んだ日。


『なんだかんだ良い人ですよね先パイ』


そんな事を言われるほど彼に優しくしたつもりはなかった。


『意外と悪い奴じゃねーじゃん』


友を殺されそうになったはずの子どもが私にそう言った。


私は自分のことを良い人だとも優しい人だとも思ったことは無い。

私は自分のことを感情の薄い冷たい人間だと思っている。

……そう思っていた。


弟が言った。

セル・ウォーは脅迫されてイノセント・ゼロに無理やり従わされているのだと。

ドミナ・ブローライブが言った。

従わなければ友が殺されるのだと。

セル・ウォーが言った。

イノセント・ゼロの息子たちは虐待されて無理やり従わされているのだと。

目の前の男は言った。

彼らは虐待されているのだと。

……アレックスはイノセント・ゼロに殺されたのだと。


外の街は惨状が広がっている。

イノセント・ゼロが壊した。

目の前の男たちは苦しんでいる。

イノセント・ゼロが傷つけた。

アレックスは死んだ。

イノセント・ゼロが殺した。


今の私は目の前の男と同じ目をしているだろう。

生まれて初めて、どうしようもない憎悪を覚えた。


それでも、


「……すまないが私は復讐のために戦うことは出来ない」


目の前の男は……ファーミンはキョトンとした顔をこちらに向ける。


「どうしてだ?お前もアイツを憎んでいるのに?」


「……アレックスは死ぬ前に私に言った。『みんなが安心してくらせるような規律ある世界を作ってください』と」

「私はその願いのために生きる事を選んだ」

「たとえそれで、私がどんなに損をしても不自由でも構わない」

「だから、復讐のために戦うことを、私はもう選べない」


「……そうか」


「だがあの犯罪者を野放しにするつもりは毛頭ない。あれを捕まえなければ私たちにも、貴方たちにも、民衆たちにも安心してくらせる未来はない」

「だから、貴方の手を取らなかった私が言うのも身勝手なことだが……」


「奴を……イノセント・ゼロを捕まえるために、私たちに手を貸してほしい」


そう言って今度は私からファーミンに手を差し出した。


「……復讐のためには戦わない、か」

「お前はそれでいい」

「オレの戦う理由は違うけど、それで良ければ手を貸そう」


そう言ってファーミンは私の手を取った。

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