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いま奈良教育大学附属小学校で起こっていること

奈良教育大学附属小学校でただならぬことが起こっている。

 

ことの直接の始まりは、2023年5月に「奈良教育大学附属小学校において、教育課程の実施等に関し法令違反を含む不適切な事案がある旨、奈良県教育委員会から連絡があり、奈良国立大学機構理事長の指示のもと調査委員会を設置」(「奈良教育大学附属小学校の教育課程に関する不適切事案のお詫び及び報告書について」宮下俊也・奈良教育大学長、小谷隆男・奈良教育大学附属小学校長、2024年1月17日付)したことです。

 

奈良教育大学長は、調査の結果、「学習指導要領に示されている内容の実施不足(授業時数・履修年次・評価の実施不足等)、教科書の未使用等」の不適切事項が明らかになったし、在校生と卒業生に対して「回復措置」(為されなかったとされる事項の埋め合わせ)を実施すると結論づけ、事態を「深く謝罪」するとともに、「学長として慚愧に堪えません」としています。

 

2023年4月に奈良教育大学附属小学校(以下、「附小」)に赴任した小谷隆男校長は「本校の教員は子どもに対して実に丁寧にきめ細かく指導していたことは間違いなく、驚くほど前向きに自分の言葉で話せる児童が多いことも事実です」としながらも、赴任以来「毛筆指導、道徳、外国語などが不十分であることや、職員会議の決定権が強く校長の権限を制約していることなどに疑問を感じました」としています。

 

じつは、わたくしは附小と以前から交流があり、何度か奈良に出向いて、意見の交換をしているのです。ことに、外国語活動と外国語科については前者が高学年に導入された時点からその事態にどのように対処すればよいのか、わたくしの考えを述べ、附小の先生たちと議論を重ねてきました。そして、2018年11月17日に開催された第45回奈良教育大学附属小学校教育研究会(「研究主題 “子どものため”の教育課程づくり」)において、数多くの優れた実践報告を拝見した後、「課題別分科会発表会」での「小学校の「外国語」でどんな力をつけたいか」と題したセッションに参加し、参加者との白熱したやりとりをいたしました。

 

そんな経緯があるものですから、「毛筆指導、道徳、外国語などが不十分である」ということであれば、わたくしもその責任の一端を担わなくてはなりません。じつは、外国語活動と外国語科についてはいち早く、2023年1月18日に関西学院大学の寺沢拓敬さんが「奈良教附属小、不適切指導問題---報道・学校による「代名詞の指導不足」という説明の意味不明さ」と題した論考をYahoo!ニュースに寄稿しています。的を射た指摘です。ぜひご一読ください。

 

今回の不可思議とも言える騒動の背景にはいろいろな要因があります。学校制度全体における附属学校の位置づけ、附属学校の校長の問題(「本体」大学の教員が兼務するのか、「外部」から招聘するのか)、文部科学省・県教育委員会・附属学校の力関係、(奈良県固有の問題としての)奈良国立大学機構の存在、学校における校長の役割、学習指導要領の位置づけなどです。これらの要因について一つ一つ検討する論考を発表するつもりでいたのですが、もはや事態は急を要します。まずはこの文章を発表し、多くのみなさんに問題の存在を知ってもらうことにしました。

 

事態が急を要すると判断する決め手となったのが「出向命令」です。朝日新聞デジタル版が2024年2月19日10時15分、「毛筆の授業を実施しないといった学習指導要領に沿わない指導が調査で指摘された奈良教育大付属小学校(奈良市)で、新年度からの3年間ですべての正規教員に出向を命じ、異動させる方針であることがわかった。教職員は「同意を得ておらず、出向命令権の乱用だ」と反発している」と報じています。同紙は「宮下俊也学長は1月の記者会見で、教員の異動がなく、人事が固定化されてきたことを問題の一因として指摘していた」としています。この出向命令を「報復人事」と呼んでは不適切でしょうか。

 

さらに注意が必要なのは、今回の問題をきっかけに、それぞれの学校の独自性がよき伝統でもあった他の附属学校が今後同様に不当な締め付けを受けるようなことがあってはならないという点です。ことは、奈良教育大学附属小学校だけの問題ではないことをきちんと見極めておくことが重要です。

 

現校長すら認めざるを得なかった「本校の教員は子どもに対して実に丁寧にきめ細かく指導していたことは間違いなく、驚くほど前向きに自分の言葉で話せる児童が多いことも事実です」という点については、ぜひみなさん、次の本を手に取っていただきたい。先生たちの子どもたちに対する、教育に対する熱い思いが伝わってきます。

奈良教育大学付属小学校編. 2021.『みんなのねがいでつくる学校』クリエイツかもがわ

 

附小の児童、保護者、先生を応援するためのサイトが開設されています。ぜひ訪問してみてください。わたくしも「みんなのねがいでつくる学校応援団」の呼びかけ人になっています。

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